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経鼻生ワクチン「フルミスト」の 当院での取り扱いについて

経鼻生ワクチン「フルミスト」の当院での取り扱いについて
 
 2024年度10月から日本でも使用可能になったインフルエンザの経鼻生ワクチン「フルミスト」の取り扱いについて、お問い合わせいただくことが増えてまいりましたので、現時点(202410月)での当院での考え方をお知らせします。今シーズンは当院でのフルミストの取り扱いは、医師と相談の上限定的となる予定です。ネット等で予約を受け付けることは行いません。ワクチン効果持続期間が長いと期待されること、注射の痛みがないということはメリットと考えていますが、注射を嫌がるのに鼻噴霧を嫌がらない子がどのくらいいるのか疑問です。デメリット現時点では不活化ワクチンと比べて効果が劇的に高いということはないということと、不活化ワクチン2回分よりやや高い価格設定¥8500となる点です。このため、ご両親が希望される場合や、インフルエンザワクチンの注射がどうしても出来ない場合の選択肢として、若干の本数を確保しております。
 
下記は2024年9月2日に小児科学会が発表した考え方です。ご参考にされてください。
 
2024 年9月2日 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方 ~医療機関の皆様へ~ 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン (live attenuated influenza vaccine: LAIV) は 2003 年に初めて米国で承 認され、2023年4月時点で36の国と地域で承認されています1)。小児にとって、ワクチンに伴う痛みは重大な 懸念事項であり、経鼻接種による痛みの軽減には重要な意義があります。国内においては長年に渡り未承認 のままでしたが、2023年3月27日にLAIV (商品名:フルミスト®︎点鼻液) の製造販売承認がなされ、実際の接種が2024/25シーズンから開始される見込みとなっていることから、日本小児科学会予防接種・感染症対策委 員会はその使用に関する考え方を示します。 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会の推奨 ・不活化インフルエンザHAワクチン (正式名称: インフルエンザHAワクチン) (inactivated influenza vaccine: IIV) と経鼻弱毒生インフルエンザワクチン (live attenuated influenza vaccine: LAIV) の間にインフルエンザ罹患 予防効果に対する明確な優位性は確認されていません。 ①2歳〜19歳未満に対して、不活化インフルエンザHAワクチンまたは経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの いずれかのワクチンを用いたインフルエンザ予防を同等に推奨しますが、特に喘息患者には不活化インフルエ ンザHAワクチンの使用を推奨します。経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは飛沫又は接触によりワクチンウイ ルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザHA ワクチンの使用を推奨します。 ②生後6か月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチ ンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては不活化インフルエンザ HA ワクチンのみを推奨します。 1. 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン (LAIV) について 1)製品特徴 LAIV は当初、3価ワクチン (trivalent live attenuated influenza vaccine: LAIV3) として承認されましたが、2012 年以降、米国を皮切りに4価ワクチン (quadrivalent live attenuated influenza vaccine: LAIV4) への切り替えが行 われました。申請の段階では、LAIV4としてA型インフルエンザウイルス (A/H1N1及びA/H3N2) とB型インフ ルエンザウイルス (B/Yamagata系統及びB/Victoria系統) のリアソータント4株が含有されていました2)。ワク チンウイルス株は、次期インフルエンザシーズンでインフルエンザワクチンとして世界保健機関 (World Health Organization; WHO) が推奨する株をもとに毎年選択されています。 LAIV に含まれる弱毒生インフルエンザウイルスは鼻咽頭部で増殖し、野生株の感染 (自然感染) 後に誘導さ れる免疫と類似したIgAを介した局所免疫、及び全身における液性、細胞性の防御免疫を誘導することが期待 されます。 1 2)有効性 【国内】 ・国内におけるLAIV (商品名:フルミスト®︎点鼻液) 薬事承認時の臨床試験では、LAIVと不活化インフルエン ザHAワクチン (正式名称: インフルエンザHAワクチン) (inactivated influenza vaccine; IIV) の直接比較試験 は実施されていません1)。 ・2016/17 シーズンに2歳〜19歳未満の健康小児を対象として、LAIV (595例) 又はプラセボ (290例) を1 回接種した無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験が行われました。その結果を表1に示します1)-3)。 表1. インフルエンザ罹患予防に対する有効性 (vaccine efficacy) ①全ての株によるインフルエンザ疾患に対するLAIVの有効性 (vaccine efficacy) は28.8%であり、日本人 小児でのインフルエンザ罹患予防効果が示されました1)-3)。 ②ただし、調査が行われた2016/17シーズンにおいて検出された分離株の83%を占めたA/H3N2亜型株に対す る日本人小児におけるインフルエンザ罹患予防効果は28.0%であることが確認されましたが、A/H1N1 亜型株や B型株に対する有効性は確認できませんでした2)。 【国外】 ・国外の市販後調査に基づく報告(表2)では、LAIVとIIVの間にA/H3N2亜型株に対する有効性の明らか な違いはみられなかったと報告されています1)2)。 表2. 2016/17 シーズンに実施された国外の市販後調査における有効性 (vaccine effectiveness) ・米国からの報告によると、A/H1N1pdm2009 が流行した 2015/16 シーズンにおける、2 歳〜17 歳におけるイ ンフルエンザ罹患に対するLAIV、IIVの有効性 (vaccine effectiveness) はそれぞれ3% (95%信頼区間 (CI) : -49, 37)、63% (95%CI: 52, 72) でした 4)。LAIV の低い有効性 (vaccine effectiveness) は過去 2 シ ーズン (2013/14 及び 2014/15 シーズン) に続くものであったことから、米国の予防接種諮問機関である 2 Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) はその後の 2 シーズン (2016/17 及び 2017/18 シー ズン) 、一時的にLAIVの推奨を中止しました。 ・2010/11〜2016/17 シーズンにおけるsystematic review と meta-analysis によると、2 歳〜17 歳における全 ての分離株、A/H1N1pdm09株によるインフルエンザ罹患に対するLAIVの有効性 (vaccine effectiveness) は、それぞれ45% (95%CI: 32, 56)、25% (95%CI: 6, 40)であったと報告されています 5)。 ・米国においても2018/19シーズン以降は、LAIVの推奨が再開されており6)、ACIPは、LAIVとIIVを含む全 てのインフルエンザワクチンを同等に推奨しています7)8)。 3)安全性 主な副反応(国内)3) 10%以上: 鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔咽頭痛 1〜10%未満: 鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザ* 1%未満: 発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎 頻度不明: 顔面浮腫、蕁麻疹、ミトコンドリア脳筋症の症状悪化 *接種後数日にインフルエンザ様症状を呈した場合に、病原体検査を行った場合にワクチン由来ウイルスが検出され、インフルエンザと診断される 可能性があります。 2.LAIV (商品名:フルミスト®︎点鼻液) の接種方法 1)接種適応年齢:2歳〜19歳未満3) ・国外での臨床試験において、2歳未満の小児にLAIV接種した後に入院及び喘鳴のリスクが増大したとの 報告があります。現時点では、2歳未満の小児等に対する接種適応はありません3)。 ・国外においては、2歳以上49歳以下を接種適応年齢としていますが、国内における接種適応年齢の上限は 19 歳未満です。 2)接種回数:各シーズン0.2mLを1回 (左右の鼻腔内に各0.1mLを 1噴霧ずつ、合計2噴霧) 注射用ではありません。絶対に注射しないでください。 実際の接種方法は文末の図1を参照。 ・米国では、過去に2回以上のインフルエンザワクチン接種歴がない8歳までの小児に対して、LAIV4を同一 シーズンにおいて少なくとも4週間あけて2回接種することを推奨していますが7)-9)、国内においては、全ての 接種適応年齢 (2歳~19歳未満) において、1シーズンにおける最大接種回数を1回としています。 3)接種不適当者 ・添付文書上は、以下の条件を満たす場合を接種不適当者としています3)。 ①明らかな発熱を呈している者 ②重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 ③本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者 ④明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者 3 ・米国においては、「弱毒生ワクチンであるLAIVのウイルスに起因する疾病リスク (ワクチンによるインフル エンザ症状の発症や重症化) は未確定だが、生物学的には妥当であるため、先天性/後天性免疫不全症、 免疫抑制剤使用中の者、無脾症 (機能的無脾症を含む) など免疫が低下している者、中枢神経系の解剖学 的バリアー破綻がある者 (人工内耳埋め込み術を受けている、内耳の先天性形成不全、持続的な脳脊髄液 の交通など) へのLAIV接種を推奨しない」 としている7)-10)。 ⑤妊娠していることが明らかな者 ⑥上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者 4)注意事項 ①同時接種、接種間隔 ・医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます3)。 ・米国においては、同時接種を除き、LAIVと他の生ワクチンの接種は、少なくとも4週間以上あける必要があ るとしています7)8)。 ・英国においても、以前は米国と同様の推奨をしていましたが,現在は LAIV と他の生ワクチンの接種は、特 に間隔をあける必要はないとしています11)。 ・国内の添付文書にはLAIVと他の生ワクチンの接種間隔を制限する記載はありません。 ②ゼラチン ・国内の添付文書は、「ゼラチン含有製剤又はゼラチン含有の食品に対して、 ショック、アナフィラキシー (蕁 麻疹、呼吸困難、血管性浮腫等) 等の過敏症の既往のある者」を接種要注意者 (接種の判断を行うに際し、 注意を要する者) に分類しています 3)。一方で、同添付文書は、「本剤の成分によってアナフィラキシーを呈し たことがあることが明らかな者」を接種不適当者 (予防接種を受けることが適当でない者) に分類しており、3) LAIV は安定剤として精製ゼラチンを含有しています。 ・日本小児科学会は、ゼラチンによってアナフィラキシーを呈したことがある場合には、IIVのみを推奨します。 ③卵アレルギー ・国内の添付文書は、「鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある者」を接 種要注意者 (接種の判断を行うに際し、注意を要する者) に分類しています3)。 ・米国においては、「卵アレルギーのみの場合は、重症度に関係なく、あらゆるワクチン被接種者に推奨され る以上の (特別な) 安全対策は必要ない。」としています8)9)。 ④喘息 ・LAIV は経鼻接種ワクチンであり重度の喘息を有する者又は喘鳴の症状を呈する者における接種には注意 が必要です。 ・国内の添付文書は、「重度の喘息を有する者又は喘鳴の症状を呈する者」を接種要注意者 (接種の判断を 行うに際し、注意を要する者) に分類しています3)。 ・米国では、喘息または喘鳴の既往歴のある2~4歳児への接種を推奨していません9)。 ⑤水平伝播 ・LAIV の接種を受けた小児は、鼻咽頭分泌物中にワクチンウイルスを最長3-4週間排出する可能性があり ます2)7)。実際、重篤な疾患との関連は報告されていないものの、LAIV被接種者から未接種者へのワクチン 由来ウイルスの水平伝播が報告されています7)。 4 ・国内の添付文書には、「飛沫又は接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、ワクチン接 種後1〜2週間は、重度の免疫不全者との密接な関係を可能な限り避けるなど、必要な措置を講じることを被 接種者又はその保護者に説明すること。」という記載があります3。 ・米国においては、重度の免疫抑制者の濃厚接触者 (例えば、家庭内接触者) はLAIVの接種をするべきで はないとしています8)9)。 ⑥授乳婦・妊婦・妊娠の可能性のある女性 ・IIV は授乳婦、妊婦、妊娠の可能性のある女性すべてに接種が可能ですが、LAIVは、妊娠していることが明 らかな者は接種不適当者です。LAIVを接種する場合、妊娠出産年齢の女性においては、あらかじめ約1か 月間避妊した後接種し、ワクチン接種後約2か月間は妊娠しないように注意します3)。また、国内の添付文書 には、「水平伝播の可能性があるため、授乳婦はLAIV接種後1〜2週間は乳児との接 触を可能な限り控え ること。」、「授乳婦は、治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討するこ と。」という記載があります3)。 ⑦抗インフルエンザウイルス薬 ・LAIV と抗インフルエンザウイルス薬を併用した場合、ワクチンウイルスの増殖が抑制され、LAIV の効果が 減弱する可能性があります3)。 ・米国においては、過去48時間以内にオセルタミビルまたはザナミビル、過去5日以内にペラミビル、または 過去17日以内にバロキサビルを投与された場合は、LAIVの接種を推奨していません7)-9)。 ⑧サリチル酸系医薬品(アスピリン等)、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸 ・ライ症候群やインフルエンザ脳炎・ 脳症の重症化との関連性を示す報告があります3)。 ⑨頭蓋顔面奇形 ・国内添付文書上は、接種要注意者には含まれていませんが、European Medicines Agencyは頭蓋顔面奇形 が修復されていない小児に対するLAIV投与の安全性に関するデータはないとしています12)。 図1.LAIV (フルミスト®︎点鼻液) の接種方法 文献3)より転載 5 文献 1. 第 25 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会. 小児に対するインフルエンザワクチンについて. 2024. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001256393.pdf (2024 年 8 月 20 日閲覧) 2. 第一三共株式会社. フルミスト点鼻液に関する資料. https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20230424001/index.html (2024 年 8 月 20 日閲覧) 3. 第一三共株式会社. 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書. 2023. https://www.medicalcommunity.jp/filedsp/products$druginfo$flm$pi/field_file_pdf (2024 年 8 月 20 日閲覧) 4. Centers for Disease Control and Prevention. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2016–17 Influenza Season. Morbidity and Mortality Weekly Report 2016; 65: 1-54. 5. Lisa Grohskopf. Review of Effectiveness of Live Attenuated Influenza Vaccine. the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) meeting 2018. https://stacks.cdc.gov/view/cdc/59905 (2024 年 8 月 20 日閲 覧) 6. Centers for Disease Control and Prevention. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2018–19 Influenza Season. Morbidity and Mortality Weekly Report 2018; 67: 1-22. 7. Centers for Disease Control and Prevention. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases (Pink Book) 14th edition. 2021. 8. Lisa A. Grohskopf, Lenee H. Blanton, Jill M. Ferdinands. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2023–24 Influenza Season. Morbidity and Mortality Weekly Report 2023; 72. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/rr/pdfs/rr7202a1-H.pdf (2024 年 8 月 20 日閲覧) 9. Centers for Disease Control and Prevention. Recommended Child and Adolescent Immunization Schedule for ages 18 years or younger. 2024. https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/imz-schedules/downloads/child/0 18yrs-child-combined-schedule.pdf (2024 年 8 月 28 日閲覧) 10. Kimberlin DW, Banerjee R, Barnett ED, et al. Red Book: 2024-2027 Report of the Committee on Infectious Diseases 33rd. 2024. 11. 福田 治久. 医療システムの質・効率・公正 医療経済学の新たな展開(Vol.9) ワクチンデータベースを用 いたワクチンの有効性・安全性の科学的検証. 医学のあゆみ 2023; 286(11): 921-7. 12. European Medicines Agency. Fluenz Tetra Summary of product characteristics. 2023. https://www.ema.europa.eu/en/documents/product-information/fluenz-tetra-epar-product information_en.pdf (2024 年 8 月 28 日閲覧)